気が向いた時に書いてた命望の終わりが見えません!
この二人のやり取りは、妹太と違った意味で書いてて楽しい。
続きから、書きかけの出来上がってる命望的なもの。
兄弟といえばニルライも大好きなんですけど、誰か書(描)いて私のクリスマスプレゼントにすればいいと思うよ!
「私を殺して下さい、命兄さん」
宿直室の狭い窓から何を見ているのか、揃いの眼は遥か虚空しか映していないのか。
人が訪ねた時に限り弱みを見せる、この弟の悪い癖であった。構って欲しいからなのだろう。止めてくれる声を、自分受け止めてくれる存在を、渇望することに何も罪の意識を感じないあたりに甘さが滲み出ている。最も付き合ってしまう私も私なのだが、他の兄弟より近所に住んでいることからつい甘やかして伺いを立ててしまうのだ。
「どうも、物騒な話だな」
こうやって返答するのももう何度目だったか。弟の教え子たちが言うような『かわいそがられたい』のポーズであることは凡そ見当はついているが、私の対応で弟にどのような心境の変化を与えているかは知る由もない。しかしこの時、決して投げ遣りな態度を取ってはいけない。「ああそう」な反応をしたら最後、「どうせ私なんか死ねばいいんですよ」と叫んだ挙句首を吊りかねない(これもポーズであるのだが)。何にせよ扱いの難しい弟だ。年が近い分、共に経てきた密度の濃さからそれなりに理解しているつもりだが、それでも不可解な行動や言動ばかりだ。時折、本当に青少年を教え導く立場である聖職者であると言う事実を忘れそうになるのは、私の頭が悪いからではない。断じて、絶対だ。
「で、今日はどうして死にたくなったんだ?」
この質問もいつもどおり。どうもこうもテンプレートをなぞっているだけである。聞く弟も、わかっているのに逃げない私も実に滑稽だ。窓を見ていた弟の目が緩慢に蠢き、卓袱台に肘をつく私を捉える。白い頸に残っている紫斑はこの際無視だ。
「………言われたんです」
「誰に」
「私のクラスに、風浦さんと言う女生徒がいるのはわかりますか」
「…風浦……ああ、あの子」
前髪に特徴的なヘアピンをつけた、明るすぎる笑顔が逆に恐ろしい少女を思い出した。初対面の私にさえ禁句を言うような彼女であるのだから、普段の弟への扱いも推して知るべしか。そう言うと、「彼女はそのような方ではありません」と弱々しくもはっきりとした声色で弟が否定した。確かにあれは毒舌ではなく、底の知らない正直さなのだろう。
「その風浦さんに何を言われたんだ」
「……それは…、」
「望」
「……『先生はお兄さんのことになると表情が柔らかくなりますね』」
「…それを?」
「はい。家族ですからそうかもしれませんねと答えたら、こう続けられましたよ、『やだなぁ先生、カマトトぶらないでくださいよぉ。わかってるんですから』って」
「おい望、まさかお前生徒に、」
「言うわけないでしょう!それに言えるようなものではないでしょう!」
力いっぱいに否定されると悲しいものだが、私たち兄弟はただの兄弟ではなかった。赤ん坊が母親の乳を欲しがるが如く自然に一戦を越えて、所謂恋人同士と呼ばれるような感情を持ち、関係している。同性兄弟の近親相姦など世間から後ろ指を指される出来事に上位ランクイン必至だ。お互い信頼が大事な職業に就いている身である、愛おしい同胞以上の欲求を秘めた関係は周囲に漏らすはずもない。まぁ、次兄と末の妹はそれはもう面白おかしく知り尽くしている現状であるのだが。
「…まさかとは思うが、倫が何か言ったんじゃないだろうな」
「女生徒同士の会話なんて知りませんよ…」
「まぁそれで、お前は絶望してたって訳か」
「勝手に台詞取らないで下さい!」
「はいはい、申し訳ございませんでした」
卓袱台を力強く叩いたせいで二つの湯呑みが不安定に揺れた。出涸らしの緑茶がたぷりと木目を濡らす。そちらに視線を遣ってから、気難しく眉を寄せる弟を見た。自分と同じ顔を持つ男に、恋心を抱いたのはいつだったか。それこそ自然に惹かれ、求めたのだ。弟が死を求めるポーズをするのと同じように、私はただ弟が欲しかったのだ。世間様に褒められるものではないと重々承知の上だ、けれどその不健康な白い痩躯の下にある遺伝子を欲しがってやまない。それを恋慕だの愛だのと呼べば多少の苦痛も忘れる?馬鹿を言え、盾にして馴れ合っているだけだ。しかしそれ以外の呼び方を、私たちは知らなかった。
「でも私は嬉しいよ」
「はぁ」
「お前がどれほど私を恋しいと思っているかが、よくわかったエピソードだ」
「頭沸いてんのか角眼鏡」
「素直に認めたらどうだい」
「本当いい加減にしろよてめえ」
ああ、なんで来たんだよ馬鹿兄と、悪態を吐く弟の頭に手を載せてやる。もしかしなくとも一次接触が苦手な弟の体が震えたが、全く気にせず髪の毛を撫で回した。自分と同じような黒い猫毛、多少違うのはハネ具合と襟足の長さぐらいだ。昔は、昔もそうだった。どうやら今日の私は思い出してばかりだ。昔、糸色の屋敷にいた頃。この弟は何かあると年の近い私の元へ甘えに来た。庭で走っていたら転んだだの、妹におもちゃを取られただの、テストの点が悪かっただのといった、他愛も無い理由で呼ぶ声。命兄さん、とそれが私が持つ弟への優越であったのだ。
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ところで先々週?のマガジンはどういったことなんでしょうか。
久米田は命兄さん好きを萌えによる窒息死させる気でいるに違いない。
やっぱみこのぞいいです、とても。