一見して矛盾した感情の引鉄を引くのは簡単だ。
傍にいて、手をにぎって、いってほしい、「だいじょうぶだよ」
寄るな、さわるな、顔みせるな、「どっかいってしまえ」
無意識が求めるのは追体験か、それとも一瞬の思慕か。
指先がふるえる、ペンをおとす、距離がちぢまる、蛍光灯の光はあわい。
何もかも悲観した俺の視線にあわせて、俺の指をさらって、
そして囁く、「お前とはずっとこういう風に居たいとおもう」
追体験か、永遠の友情か、 それとも、それこそ、一瞬の思慕か。
(結婚することになったんだ)
あの指先の感触は、俺のものじゃないということだ。
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「溺れていたいんだ」
と、上京して早数年経つ彼のえりくびの白さ、晩夏、
ぽつりと呟かれた、ひどく抽象的な言葉。
「もういやだ。」泣き言をくりかえす彼に、
「だいじょうぶだよ」、手をにぎった。
コーヒーを淹れる指先、煙草をくわえる指先、ペンをつかむ指先が、
ふるえていたのは、この形容しづらい感情のせいなのか。
溺れていたいのは、あの手を、あの指先にすがっているのは、
このひとつの運命に溺れていたいのは、どっちなのか。
(結婚することになったんだ)
ここで飲むコーヒーは、ほろ苦くなりそうだ。
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春に寄せて。
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